『概説 千の昼と千の夜』

               written by 古酒
 この世の初めよりあるもの、それは光であり、闇である。
 光があるところにはそれと同じだけの闇があり、闇があるところにはそれと同
じだけの闇があるのである。
 人は光が善であり、闇が悪であるという。しかしそれは正しいものの見方では
ない。人は光に安心感を覚え、闇に恐怖や不安を覚える。そしてそれを善悪に置
き換えているのである。
 光と闇を善悪に置き換えるとすれば、それはその平衡が失われたときであろう。
闇が増えすぎれば、それは悪と置き換えられ、光が増えすぎれば、それもまた悪
に置き換えられるのだ。
                                         R.Hinase 【創世の概論】より抜粋

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 「あんたの負けだよ、仲間を信用せず次々と切り捨てる。そんなやり方がいつ
までも通用するわけがない」
 龍之介が剣の先を向ける。しかし男の目にあきらめの光なかった。
 「まだだ、俺が負けるわけがない。俺が正しいんだ。」

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 「もうやめて!」
 真っ白の貫頭衣に身を包んだ少女が叫ぶ。
 「完全な善なんてないのよ、たとえ善いことでもそれが過ぎれば悪になること
もあるわ、完全な善人も完全な悪人もいないの!」
 聞いていた男がにやにやと笑いながらそれに答える。
 「おやおや神官長の桜子様とは思えない言動ですね、何があなたにそう言わせ
るのでしょうね」

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 「へえ、あの拓朗がねぇ…どっかその辺の迷宮で罠にかかってたりしてね」
 さとみがちゃかすように言う。
 「もう、そんなこと言うもんじゃないわよ。さ、いきましょ」
 「舞ちゃんの言う通りだな、ま、なんにしろ追わないとならんだろう」
 「ふぅ、そうね、じゃちょっと待ってて」

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 「あんたが龍之介かい、俺拓朗って言うんだけどちょっと話があるんだ」

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 「あんたなんか絶対に許さないんだから」
 唯がその男を指さす。
 「唯さんこれを」
 投げられた剣を唯が受け取る。その受け取った動作のまま剣を抜く。次の瞬
間には細身の白銀の剣を構えた唯の姿がそこにあった。
 「くくっ、そんなひ弱な剣で僕を倒すつもりですか、不可能ですね」

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 「さあ、可憐、我が神のために殉じなさい。完全な善なる世界のために」
 男は両手を広げて叫んでいる。
 「はい…」
 そう答えた可憐の目に生気はなく、まるで操り人形のようだった。
 「ねぇ、やばいんじゃないか」
 「そうね、でも私たち二人だけじゃどうしようもないわ」

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 「じいさん、ほんとにこっちで良いのか」
 「ひょひょ、当たり前じゃ儂を信じんか」
 「全く、なんでこの私が…」

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 「終わったのか」
 龍之介が呟く。その場は既に静寂に包まれていた、隣にいる拓朗が何かの装置
をいじっている。
 「そのようだな、これでまたもと通りって訳だ」
 拓朗が肩をすくめて言う。
 「ま、昔通りって訳じゃないけどな、じゃ、戻るか」

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