幸福の場所 #2

幸福の場所　#2　 <Lucky?>

　　　　　　　　　　　　　　　story by くだから

 ６月ともなると暑い日が多くなり、日が落ちるのも遅くなって来る。
 俺は今日も部活が終わり帰り道の途中だった。

 結局、俺は最初の希望通りテニス部へ、卓郎とさとみは帰宅部、一哉は水泳部とさん
 ざん悩んだあげくテニス部に決めた。
 もっとも一哉がテニス部に決めたのは、あの桜木に恋人がいるって噂を聞いたからら
 しいんだけど。
 それに男子の方はそんなに練習が厳しくないというのも、一哉の性にあったのかもし
 れなかった。
 兎も角俺と一哉はテニス部に入部し頑張ってるわけだ。
 １年生は球拾いといった事もなく自由に打てた･･･ホントに自由なんだ。
 必ず顔を出さなければならないのは水曜のみ。
 しかも理由があれば休んでも良し。宿題も理由になるらしかった。
 他の曜日は来て打ってもいいし、授業が終わったらそのまま帰ってもよかった。
 そのおかげで俺は卓郎や友達が遊ぼうと言った日は遊べたんだ。
 みんなと遊ぶのは勿論楽しかった。特に卓郎と遊ぶ時は、なんせ卓郎が元気なもんで
 夜遅くまで遊びまわる事もあった。
 けど俺にとって部活も大事な時間だった。
 子供の頃から続けていて強くなりたいという思いもあった。けど憧れだったちはるさ
 んのテニスを目の前で見れるというのがなんとも魅力的だった。
 だから結構部活には出たんだ。俺が部活にでるとクラスは違うけど一哉も一緒の事が
 多かった。一哉は初心者だったけど、俺に付き合う様に部活にでるもんでフォアでは
 そこそこ打てるようになった。
 楽しくなってきたのか、一哉もスコートがどうこう言わなくなり俺を部活に誘う事も
 あった。


「なあ和紫、明日も部活でるの？」
「うん、多分でるよ。ひろはどうすんの？」
「英語の訳が出てるからな、わからん」
「そんなもんやらんでいいねん」
「うるさいな、俺は一哉と違って真面目なんだよ」
「なにが真面目やねん･･･」
 あはは、今日もひろと一哉が日課をこなしてる。
 ひろ、朝倉 博之とはテニス部で仲良くなったんだ。新入部員は１０人ぐらいいたん
 だけど、コンスタントに来るのは俺達３人だけだった。
 高１にしては背が高く、最初話し掛けられた時は先輩と間違えたんだ。
 まあそんな事はどうでもよくて、俺と一哉とひろは挨拶仲間から徐々に仲良くなっ
 ていった。
 ひろも経験者で俺と２人で一哉に打ち方を教えたんだ。
 自由なのはいいけど、そのせいで先輩に教わる機会もめったにない。
 今先輩の名前を言えと言われても主将ぐらいしかわからん。
 とまあ非常に変わった部活で３人は出会ったわけだ。
「一哉は明日どうすんだよ？」
 まだひろとじゃれあってる一哉にきいてみた。
「俺？俺は勿論出るねん。誰かと違って真面目やし」
 ひろを見ながら一哉が答える。
「このやろう」
 ひろが笑いながらこめかみに指をやる。

 異なる３つの笑い声はホントに楽しそうだった。


 次の日、学校に行くと珍しくさとみと卓郎がすでにいた。
 この２人はいつも時間ぎりぎりに来る。けどさとみは遅刻した事が無く卓郎は何回か
 してた。
 遅刻する度に芹沢先生にしかられるのに、卓郎はまるで気にしてないようだった。そ
 んな卓郎をみてさとみは思いっきりあきれてたっけ。
 そんな２人がなんで今日はこんな早くきたんだ？
「おはよう、和紫」
「和紫、相変わらず学校来るの早いな」
「おはよ、さとみ、卓郎。俺は別に早く来てるわけじゃないよ。
  それよりどうして２人とも今日は早いんだい？」
 俺はきいてみた。
「まあこいつの事は解らないけどね、私は中間テストの順位発表の為に早く来たんだ」
 さとみが答える。
 おおっ忘れてた。今日中間テストの順位を発表するって先生言ってたもんな。
 一人暮らしは親が勉強の事をとやかく言わないんで全然気にしてなかった。
 という事はまさか卓郎も？
 それともただの気まぐれかな？
 ８時をちょっと回った頃廊下がざわざわしだした。
 どうやら順位が張り出されたみたいだ。
「和紫見に行こうよ」
 卓郎もと言わないのが実にさとみらしかった。
「卓郎も一緒に行く？」
 俺は卓郎に聞いてみた。
 溜息をついたさとみと３人で廊下へ出ていった。

 廊下にでるともう人だかりが出来ていた。
 俺とさとみは小走りで、卓郎は歩いてついてきた。
 背伸びをして見てみるとどうやら１００番まで張り出されているようだ。
 １学年３５０人ぐらいだからまあこんなもんか。
 弱気だが俺は下の方から順に知ってる名前を探していった。
 ９０、８０････誰も見つからない。
 ７０、６０････あった。５２番 さとみだ。
「さとみ凄いじゃん、５２番だよ」
 だがさとみは不満そうな表情だ。これぐらいじゃ駄目なのかな？
「和紫に凄いって言われてもねー」
 ？、どういう意味だろう。
 まあ人それぞれの事情があるんだろう、俺は続けて見ていった
 ４０、３０････いないな。
 ２０、１０････おやっ？俺の名前があるぞ。えーと････！
 な、６番！俺が？
 俺は緊張を押さえもう一度よく見てみた。
 やっぱり６番だ、間違いない。
 信じられない、俺がこんな順位を取るなんて。
 徐々に実感がわき嬉しくなってきた。
 あ、それでさとみはあんな事言ったのか。
 俺はさとみに謝り、もう一度確かめたくて順位表を見た。
 今度は少し落ち着いて見る事が出来た。
 そして気付いた。知っている人の名前に。

 ２番 桜木 舞
       ･
       ･
 ５番 朝倉 博之

 桜木はまあ、やっぱり凄いなと思った。
 ひろってば頭良いんだ。俺のはまぐれだと思うけど、ひろはどうなんだろ？
 部活で会ったら聞いてみよ。
 俺がそんなこと考えてたらさとみと卓郎は教室に戻ったみたいだ。
 俺はもう一度自分の名前を見てから教室へ戻った。


 部活からの帰り道は予想通りというか何というか一哉がうるさかった。
「あーあひろも和紫も裏切りやがって。どーすりゃ学年５位６位なんてなれるねん」
 もーずっと続いてる。ひろも苦笑してるだけだ。
「大体部活出てる奴がいつ勉強すればいいねん。家に帰れば風呂入ってすぐ寝てま
  うのに」
 気持ちはわかる。俺やひろは経験者だから余計な筋肉使わない分疲労も少ない。
 それに比べ初心者の一哉は俺達よりかなり疲れるんだろう。
「こんなんなるなら水泳部入ればよかった」
 一哉がそんな事言うと、いままで苦笑してたひろが
「でも水泳部の桜木さん学年２位だぜ。まあ毎日部活あるかわからないし、トレー
 ニングがどれだけキツイかもわからないけどね」
 桜木という名前で俺はびくっとしてしまった。
 そんな態度に気付いた風もなく
「だって桜木ってお嬢様やん。家庭教師もおるし」
「それなら一哉も家庭教師つけるかい？」
 ひろが意地悪そうに笑う。
 一哉が何て言い返そうか考えてる内に交差点についてしまった。
 この交差点をまっすぐが俺とひろ、右に曲がるのが一哉の家だった。
 別れの挨拶をし一哉がくやしそうに帰っていった。
 歩きの一哉と別れると俺とひろは自転車に乗った。ひろが話し掛けてくる。
「和紫って勉強出来るんだな」
「何言ってんだよ。ひろの方が順位上じゃん」
「俺はまぐれだよ」
「俺だってまぐれだよ」
 ひろはクスッて笑った。
「まあいいや。それより和紫桜木さんを知ってるのかい？」
「え、なんで」
 ちょっとびくっとした。
「なんでクラスの違う一哉が知ってるのかなって思って。俺は桜木さんと同じクラス
 だから知ってるんだけど」。
「ああ、部活を決める時水泳部へ見学に行ったんだ。可愛い子がいるって一哉に連れ
 られて」
 まあ卓郎も一緒にいたけどいいかな？
「成る程ね。それで家庭教師とか知ってたのか」
 いや、どっかから情報を入手しないとそこまでは知らんと思うぞ、普通。
「まあ桜木さんに付き合ってる人がいるって噂聞いて諦めたみたいだけどね」
「ああ俺も聞いた。確か相原って奴だったな」
 相原？はてどっかで聞いた事ある気がする。思い出せん。
「ひろ、桜木さんに気があるのかい？」
「そんな事はないよ。ちょっと聞いてみただけだってば」
 ひろが慌てて答える。
 俺はふーんって顔をした。如何にも納得してないように。
「なんだよ和紫、誤解すんなよ」
「わかったよ、じゃあなひろ、また明日」
 もう俺の家だった。
「ああ、じゃあな和紫」
 どこか納得出来ない顔のひろとわかれた。

 部屋についてシャワーを浴び一息つくと、予想外の順位を思い出し嬉しくなって来
 る。
「母様、俺は頑張ってるよ」
 そう呟いて横になる。
 今日はいい夢が見れそうな気がした。

《幸福の場所 #3 へ続く》
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